実践的な研修で発注サイドとしてのプロジェクト推進ノウハウの平準化、継承の課題を解決した、5か月の軌跡

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ビールを中心とした酒類や飲料、食品など多様なブランドを世界で展開するアサヒグループで、主に日本事業における経営戦略の立案や経営管理を担うアサヒグループジャパン株式会社。同社のDX統括部では、グループ全体のDXを力強く推進していくため、事業部門や情報子会社などと一緒に伴走してさまざまなシステム構築、運用のプロジェクトに取り組んでいます。

今回の取り組みではDX推進担当者がプロジェクトマネージャー(以下、PM)として、プロジェクトを推進するためのリテラシー・スキルを底上げして平準化し、後任のPMへノウハウを継承していくことを目的に、弊社の実践プロジェクトマネージャー育成研修を受講いただきました。

今回はDX統括部の関根氏、酒井氏にお話を伺い、取り組みの経緯や研修のご感想、そして受講後に得られた成果についてお話しいただきました。

事業部門とITのパートナー会社と一緒にプロジェクトを進め、グループ全体のDX推進に取り組むDX統括部

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アサヒグループジャパン DX統括部 グループリーダー 関根氏

下田: お二人が所属しているDX統括部では、どのような業務に取り組んでいるのでしょうか?

関根氏: DX統括部には現在、70名が在籍しています。DX統括部のミッションは、ITのモダナイゼーションや先進デジタルテクノロジーの導入を通じて、アサヒの「ダイナミック・ケイパビリティ」をはぐくみ、アサヒの企業価値を永続的に高めていくことです。その中で、私たちビジネスプロセスマネジメントグループのミッションは大きく2つあります。

まずIT・デジタル・データの利活用を伴うビジネス変革を加速する役割を担い、各事業会社事業部門と協調し、トランスフォーメーションPJの創出・リードする「エンゲージメント」です。もうひとつがマーケティングや営業、OTを中心とした生産領域に関するシステム開発・改善PJの企画及びプロジェクトを統括し、ビジネストランスフォーメーションを推進する業務です。

酒井氏: 普段のプロジェクトマネジメント業務では、QCDの順守、つまり品質・コスト(予算)・納期を予定通りの100%に収めることを指標としています。システムによってはEOSL(保守期限)が厳格に定められたものもあります。その期限までにシステムをリリースしきることを目指して、日々のプロジェクトマネジメント業務に取り組んでいます。

下田: プロジェクトマネジメント業務で、大切にしている考えをお聞かせください。

酒井氏: ビジネスを中心とした事業部門の方と、ITのパートナー会社の方との間に私たちDX統括部が立ち、プロジェクトを成功させることがミッションです。そのために意識していることが、プロジェクトを進める上での注意点や聞き馴染みのないシステム用語を翻訳し、事業部門の方にしっかり理解してもらうことです。

また、アサヒグループ全体からはグループ全体のIT予算を適切に管理する役割も求められています。そのため、事業部門からの要求に対して投資対効果も踏まえ「やるべきか否か」を判断し、その上で事業部門とDX統括部が一体となってプロジェクトを推進していくことを意識し日々のプロジェクトマネジメント業務に取り組んでいます。

下田: DX統括部の体制や社員の方々のバックグラウンドを教えてください。

関根氏: 今回の取り組みで研修を受けたDX統括部のビジネスプロセスマネジメントグループには2025年2月現在、9名が在籍しています。酒井はもともとビール類の生産を担う醸造部で勤務しており、ITとは無縁の環境からDX統括部へ異動してきました。他にはSIerで業務システムの設計・開発の経験を積んできた中途入社の社員も在籍しており、バックグラウンドやITのリテラシー・スキルも様々な人間が集まっています。

グループ内のプロジェクト推進ノウハウ・スキルの平準化、継承に課題

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アサヒグループジャパン DX統括部 酒井氏

下田: プロジェクトマネジメント業務では、どのような課題を抱えていたのでしょうか?

関根氏: 今回の研修の取り組みに繋がった課題は大きく2つあります。まずはビジネスプロセスマネジメントグループに在籍する9名のITのリテラシー・スキルが高いレベルで平準化されていない点です。ただ、事業部門から異動してきた社員は、現場での経験からアサヒグループのビジネスを深く理解しているといった強みがある一方、プロジェクトマネジメントについては基礎知識を身に着けるまでに相当の時間が掛かり、特にいくつものプロジェクトを経験する中で身につくような実践的なノウハウ不足に悩んでいました。

酒井氏: 今回の取り組み当時、私はDX統括部に異動したばかりでした。その頃の大きな悩みは会議の中で出てくる大量の横文字システム用語に慣れ親しみがなく、頭にすっと入ってこないことでした。こうしたシステム用語ひとつでも業務側とシステム側で共通認識にズレが発生していると、のちにプロジェクト進行の遅れに繋がったり、納品システムのクオリティが下がったりと、必ずどこかで悪影響を及ぼします。

関根氏: もうひとつの課題が「知の継承」です。弊社では現在、システム側の専門的なノウハウとアサヒグループとしての業務ノウハウを両方身につけた人材の育成に加え、部門の垣根を越えたコミュニケーションの活性化に力を入れており、事業部門とIT部門の人材交流を増やしています。その一方、異動が増えることでせっかく業務で得られたノウハウや実体験が、後任に引き継がれにくいのではないかとの懸念が生まれました。

下田: 抱えていた課題を解決するため、どのような施策を考えていましたか?

関根氏: グループ内のプロジェクト推進のスキル・ノウハウを平準化させるため、とにかく実践経験を積んでいくことは確かに重要であり確実ですが、どうしても時間がかかってしまう点がネックです。時間がかかりすぎてしまうと、充分なプロジェクト推進のスキル・ノウハウを身に着けられないまま他の部署へ異動してしまう可能性があります。

また担当者が異動しても、後任者にしっかり引き継いでいくためにマニュアル作成などの施策でノウハウや実体験を体系化していくことも考えました。ただマニュアルにノウハウや実体験を残していくには、そもそも正しいプロジェクトマネジメントについて理解しておくべきではないかとの結論に至りました。

決め手は、実体験に基づくノウハウの引き出し。臨機応変、柔軟な対処の実現を期待

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JQ 代表取締役社長 下田

小原: 以前よりプロジェクトマネジメント支援にて、DX統括部の皆さんとはお取り組みさせていただきました。今回ご提案した実践プロジェクトマネージャー育成研修について、どのようなポイントを評価いただきましたか?

関根氏: 私は「プロジェクトは生き物」であり、絶対に教科書通りには進まないものと考えています。当初の予定通りにはなかなか進まないプロジェクトを前に進めるためには臨機応変、柔軟な対処が必要不可欠です。

今回の取り組みの直前、ITのパートナー会社とのコミュニケーションなどで苦労したプロジェクトがあり、そこでJQさんにはプロジェクトマネジメントでご支援いただきました。実際にご一緒する中で印象的に感じたのは、ITやプロジェクトマネジメントについての単なる知識ではなく、実体験に基づくノウハウと豊富な引き出しによって、一つひとつの問題に対して臨機応変、柔軟な解決策を提示いただけたことです。

JQさんから実践プロジェクトマネージャー育成研修のご提案を受けた際は、その実践的なプロジェクトマネジメントのノウハウを共有いただけること、そのノウハウを弊社側でマニュアルなどに体系化していくことを期待し、研修の実施に向けて動きだしました。

小原: 他社が提供する研修プログラムとは、どのように比較検討しましたか?

関根氏: 弊社の調達ポリシーに則り、競合他社の類似サービスと比較検討、相見積もりをしたのですが、JQさんの実践プロジェクトマネージャー育成研修のような、即実行できる実践的なプログラムを提供している研修は見当たりませんでした。プロジェクトマネジメントにおける教科書的な立ち位置の「PMBOKガイド(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)」をベースにした研修はいくつか見受けられましたが、実践的とは程遠いプログラムだったと思います。

小原: ありがとうございます。もともと実践プロジェクトマネージャー育成研修は、推進力があるPMを育成するため、社内のPM向けに作成された研修でした。弊社のPMがお客さまと一緒にプロジェクトマネジメントを前に進めるためには、実践的なコンテンツでなければなりません。そのため、実践プロジェクトマネージャー育成研修には、経験豊富なJQ社内の先輩PMのノウハウがコンテンツに詰め込まれています。

下田: 弊社では私や小原を含めPM全員が現在も第一線でプロジェクトマネジメントに従事していることが強みです。

教科書的な内容ではなく、自社にも当てはめやすいプログラムに加え、ゲストスピーカーの現在進行中の案件の失敗談やトラブルでより具体的、実践的に理解が進む

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JQ プロジェクトマネジメント事業部 取締役 ディレクター 小原

下田: 実践プロジェクトマネージャー育成研修は2024年4月にスタートし、およそ5か月にわたっての取り組みとなりました。毎週2時間の講義を対面形式とオンライン形式、それぞれ交互に実施させていただきましたが、研修の第一印象はいかがでしたか?

酒井氏: 座学の講義は非常に濃く、学ぶべき内容がとても多いなと感じました。講義の内容もただ一方的に教えられるものではなく「実際の弊社のプロジェクトの中で、こういうことがあったが、このパターンであればどうするべきだったのでしょうか」といった弊社側からの質疑応答も含め、双方向のコミュニケーションが取れたことで、実務をイメージし、議論しながら研修を進められました。

また講義に参加されたゲストスピーカーさんから紹介された失敗談やトラブルが、とても生々しかったことも強く印象に残っています。どの工程で、どのようなコミュニケーションからトラブルに繋がったのかといった、より具体的、実践的にイメージができたことで「私たちだったらどうするか」と考えやすかったと思います。

下田: 研修のプログラムには、できる限り私たちが経験した失敗談を盛り込むようにしています。失敗にこそノウハウが詰まっており、研修を通してどうすれば失敗を避けることができるかを皆さんと一緒に考えることを大事にしています。

実践プロジェクトマネージャー育成研修では、プロジェクト計画書やWBSなど、さまざまな資料作成のノウハウも共有させていただきました。特に印象に残っている資料があればお聞かせください。

酒井氏: 小原さんにご紹介いただいた「もやもやシート」が強く印象に残っています。課題管理表に載せるほどではないが、プロジェクトでちょっと“もやもや”したことを書き留めておくことで、後々にその違和感が本当にリスクとして現れる前に対応できるようになりました。ITのパートナー会社や事業部門とのコミュニケーションも円滑になり、こうした教科書には載っていないリアルなノウハウは役に立っています。

下田: 以前の課題に「知の継承」を上げていましたが、研修内容はどのように活用されていますか?

関根氏: 研修後半に異動してきたメンバーには、研修前半に録画していた研修動画を視聴させて情報をキャッチアップしました。これによって、異動してきた時期によるノウハウの格差を最小限に抑えています。

また毎回の講義後にはグループ全員が集まって講義内容を振り返り、「アサヒグループのプロジェクトマネジメントではどのように活かせるか」を議論しています。そこでの結論をしっかり残していくことで、研修で得られたノウハウを無駄にせず、「アサヒに即したプロジェクトマネジメントの型」を後任にしっかり残すようにしています。

酒井氏: DX統括部には「プロジェクト標準」というアサヒのプロジェクトマネジメントにおける標準書があるのですが、今回の研修を受けて「プロジェクト標準」よりもプロジェクトの中でのTips、たとえば「こうした成果物を制作する際には、こういうポイントに注意すべき」「事業部門の人とのコミュニケーションではこういうポイントを意識して伴走していきましょう」といった、より実践に即したノウハウやマインドを取りまとめた「PM実践ガイド」を作成しました。これまで部署に残されていた書類よりも実践的かつ詳細に書かれており、後任のPMが実際にガイドを読みながらプロジェクトを進めていく活用方法をイメージしています。

「プロジェクトマネジメントの『核』ができた」。プロジェクトマネジメントのレベルを平準化し、プロジェクトのQCD向上を実感

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下田: 実践プロジェクトマネージャー育成研修を受講されて、貴社のプロジェクトマネジメントにどのような変化がありましたか?

関根氏: 今まさに立ち上げている途中のプロジェクトがあるのですが、すでにプロジェクトの質が改善されたと感じています。たとえば、プロジェクトのキックオフまでにやるべきこと、確認すべきことが明確になっていたり、事業部門・ITのパートナー会社・私たちDX統括部の3者の役割と責任範囲がしっかりと明確化されていたり、RFP(提案依頼書)の質も向上していたりと、さまざまなシーンでプロジェクトのQCDが向上したと感じています。こうした変化に対しては、事業部門も驚いていました。

酒井氏: 私がDX統括部に異動してきた頃はプロジェクトマネジメントの教科書はなく、先輩PMから教えてもらいながら学んできました。今回の研修のおかげで、体系だったプロジェクトマネジメントのノウハウを改めて学ぶことができて良かったと感じています。もちろん以前はよく分からなかった横文字システム用語についても、しっかり理解することができています。

また基本的なノウハウだけでなく、受講した社員同士の議論や、講師の方との1on1によってアサヒグループならではのマインドや解決策を考えることができ、今後のプロジェクトマネジメントの「核」ができたようなイメージです。

下田: 以前に課題として上げていた、グループ内のプロジェクト推進のスキル・ノウハウの平準化は実現されましたか?

関根氏: これまでの経験年数による差こそありますが、マネージャー目線で見てみるとかなり高い水準でプロジェクト推進のスキル・ノウハウが平準化されつつあるように感じます。「プロジェクトは生き物」と話しましたが、プロジェクトで大きなミスを犯してしまうのは、本来抑えなければならないタイミングを捉えられずに必要な対策が打てなかったことに起因します。特にこの「抑えるべきタイミングに、必要な対策をする」というノウハウが、研修後に最も成長した部分だと考えています。

酒井氏: 研修でご提供いただいた資料を、プロジェクトの現場で日々見返して、プロジェクトの推進に活用しています。そのまま実践で使えるノウハウが多いので、プロジェクト推進のスキル・ノウハウの平準化にとても役立っていると思います。

在籍する部署を問わず、研修の内容を活かしてアサヒグループ全体のDXを前へ進めていきたい

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下田: 今後の展望をお聞かせください。

関根氏: 私たちDX統括部の思いとして、事業部門から頼られ、必要とされる存在であり続けたいと考えています。今回の実践プロジェクトマネージャー育成研修の取り組みは、DX統括部のビジネスプロセスマネジメントグループという限られた人数を対象とした取り組みでしたが、今後はDX統括部全体のプロジェクトマネジメント力を向上させるための施策にも着手していきたいですね。

また、これからも多くのプロジェクトが立ち上がり、取り組んでいくことになりますが、PM一人ひとりが今回の研修で学んだことを活かし、事業部門をしっかり支えるシステム構築を実現していきたいと考えています。

酒井氏: まだまだ先のことですが、現在のDX統括部から事業部門に戻り、業務側の立場になった際にも、今回の研修で学んだプロジェクトマネジメントの考えを最大限活かし、今度は事業部門の企画側としてプロジェクトに貢献していきたいと思います。「抱えている課題に対して適切なシステムかどうか」「次の工程に進む前に、必要なドキュメントは揃っているか」といった企画側に必要な考え方も、今回の研修で学ぶことができました。現在はIT部門として、将来的には事業部門として、アサヒグループ全体のDXを少しでも前に推進していきたいですね。

下田: 最後に、実践プロジェクトマネージャー育成研修はどのような企業におすすめできそうでしょうか。

関根氏: 私たちのような製造メーカーのいわゆる“メーカーIT”だけでなく、自社のプロダクトやサービスを持っている企業であればおすすめできると思います。また、ジョブローテーションでIT部門と事業部門のノウハウ共有を進めたいと考えている大手企業や、システムや業務問わず、さまざまなバックグラウンドの人材が集まる規模の企業には、プロジェクトマネジメントのクオリティを担保するために必要な研修なのではないでしょうか。

下田: ありがとうございました。

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