キングジムが挑んだ10億円規模の基幹システム刷新プロジェクト。乗り越えた失敗と成功までの道のり

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1927年の創業以来、代表商品である「キングファイル」やラベルライター「テプラ」など、独創的なオフィス用品の開発から物流を手掛ける株式会社キングジム。同社の情報システム部ではDXの推進をミッションに掲げ、システムの開発や基幹システム・インフラの管理、事業継続リスクを排除するためのセキュリティ全般などの業務に取り組んでいます。

同社の基幹システムである販売・物流システムシステムが導入から20〜30年経ったことを受け、10億円規模の予算をかけて新しい基幹システムへ移行することを決定されました。今回の取り組みでは大規模プロジェクトを無事に成功させるため、弊社にプロジェクト支援をご依頼いただきました。

今回はプロジェクトマネージャー(以下、PM)としてプロジェクト全体の管理、推進をいただいた情報システム部部長の田口氏にお話を伺い、プロジェクトの経緯やご依頼の決め手、そして支援によって得られた成果についてお話しいただきました。

事業部門とITのパートナー会社と一緒にプロジェクトを進め、グループ全体のDX推進に取り組む情報システム部

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株式会社キングジム 情報システム部長 田口氏

下田: 情報システム部では、どのような業務に取り組んでいるのでしょうか?

田口氏: システム部では、DXの推進をミッションに掲げています。具体的には、システムの開発や基幹システム・インフラの管理、事業継続リスクを排除するためのセキュリティ全般など、さまざまな業務に取り組んでいます。その他にも、企業全体のIT・DXリテラシーのレベルアップも大事なミッションのひとつです。

また、弊社はユニークな商品開発を強みとしており、弊社社長も「DXによる業務の効率化は、イノベーションを起こして新しい商品を開発する発想を得るために必要である」と話しています。

下田: 今回のプロジェクトで刷新されることになった基幹システムについて教えてください。

田口氏: 弊社の基幹システムである「販売・物流システム」は受注、出荷、在庫、債権などの管理を司る非常に重要な存在であり、この基幹システムが停止すると売上げを上げることができなくなります。

基幹システムに関わる部署数も多く、販売領域については営業部門、物流領域については物流部門、債権に関しては経理部門がそれぞれの業務に使用しており、情報システム部門が横軸ですべての領域を管理しています。また、会計システムやDWH、生産管理システムなど、社内の10前後のシステムと三桁を超える数のインターフェースが存在し、それぞれ最適な形でデータ連携を行なっていることも特徴です。

今回刷新する前の基幹システム(以下、旧システム)は、約20年も使用されており、クラウドやSaaSが主流となっている現在の時代背景に合わなくなってきていました。

レガシーシステム化を受け、基幹システムの刷新を決定。10億円規模の大型プロジェクトが実現

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JQ 代表取締役社長 下田

下田: 販売・物流システム刷新案件は、どのような背景から立ち上がったのでしょうか。

田口氏: 経営層や各部門から様々な改修要望を受けていたものの、旧システムで対応することが困難であったことなどがきっかけとなり、基幹システムの汎用性と拡張性を向上させることを目的に、販売・物流システム刷新案件はスタートしました。汎用性というのは、当社の業務に合わせたシステムにするのではなく、業界標準的なシステムで業務を行うという業務の標準化のことを指します。旧システムでは、長期間の利用に伴い、過剰な個別カスタマイズが進み、またコードが複雑化し、不要になった機能を廃止したくともできない状況が続いていたのです。拡張性については、インターフェース機能の開発工数を抑えながらも、データ分析ツールなど新たに連携の希望があった場合に容易に連携ができる様にすることを指します。

牧島: 経済産業省が公開している「DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜」というレポートの中でも言及されている通り、複雑化・ブラックボックス化した既存システムを使い続けているとDXを進めることができなくなる可能性が高まります。貴社の旧システムで使用されていたメインフレームは、コストの高騰や技術人材を確保できないといった問題から、他社でも脱却する動きが増えています。

下田: 貴社では基幹システムのインターフェース機能を社内リソースで開発されており、“内製文化”が強いと伺っていました。そうした社内文化にあっても今回外部の開発ベンダー、そして外部コンサルタントである弊社を入れて基幹システムの刷新に踏み切られたのは、どのような背景からでしょうか?

田口氏: 販売・物流システムの刷新は、10億円規模の大型プロジェクトとなるため、私たち情報システム部門だけでは当然開発リソースは足りず、外部のベンダーに依頼する必要がありました。しかし外部のベンダーに依頼するにしても、情報システム部門のプロジェクトマネジメントに大きな不安があったのです。

私は前職が開発ベンダーだったこともあり、開発予算に対するプロジェクトの難易度はある程度理解していました。大型のプロジェクト全体の進行管理や各部門との調整、トラブルが発生したときの解決策、そして正確な意思決定を迅速に下すための判断基準など、不安に感じていた要素を挙げだしたらきりがありません。今回のプロジェクト以前には、1億円規模の案件のプロジェクトマネジメントを経験していましたが、今回は関係する部門数が多く、開発スケジュールも長期になるため、難易度が段違いに高いといえます。

そのため、今回のプロジェクトを無事に着地させるには、プロジェクトマネジメントについて相談でき、壁打ち相手になってもらえる社外のパートナーの存在が必要不可欠であるとの結論に至りました。経営会議の場では、今回のプロジェクトの難易度の高さ、情報システム部門の経験不足を率直に説明したことで、外部コンサルタントの協力を仰ぐことに対して理解を得ることができています。

比較した3社で最も高コストだったにもかかわらず、外部コンサルタントにJQを選定いただいた理由

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JQ プロジェクトマネジメント事業部 ディレクター 牧島

下田: プロジェクトマネジメントの外部コンサルタントには、どのような要素を求めていたのでしょうか?

田口氏: プロジェクト全体の進め方に対してアドバイスをいただけることはもちろん、発生したトラブルに対応するための意思決定スピードを向上することに貢献してくださるパートナーを求めていました。

販売・物流システムを刷新するだけでなく、社内の業務そのものを標準化していくことも必要となります。そのため、各部門の現場では担当者がどのように考え、どのように業務に取り組んでいるかを理解し、新しいシステムに合致した業務へ変えていくこと、つまりチェンジマネジメントに取り組んでいただけることも大事な要素でした。

下田: 外部コンサルタントの比較検討はどのように進めましたか?

田口氏: JQ社を含め3社からご提案をいただき、コンペを実施しています。実はJQ社からのご提案が最も見積金額が高かったのです。それでも私たちがJQ社を選定したのは、プロジェクトの進め方が提案書に丁寧にかかれており、成功への道筋を明確にイメージできたからです。

JQ社の提案でひとつ印象に残っている項目を挙げると、「旧システムの構成を全部洗い出します」と明言されていたことです。そして旧システムの構成をよく理解したうえで、As-IsとTo-Beをしっかり描き、プロジェクトを前に進めていくべきと詳細の提案が続いていました。こうした内容が他社の提案に書かれていなかったのは、書いてしまうと自分たちが大変になるかもしれないと考えたからかもしれません。提案書に書かれているのに「できません」となれば、それは責任問題になります。

“内製文化”が強い弊社において外部コンサルタントが参加することは珍しく、社内合意を得るのも簡単ではありませんでしたが、情報システム部門の状況とご提案いただいた内容を率直に伝えたことで、無事に稟議を通すことができました。

プロジェクト中断の苦い経験から失敗を洗い出し、開発ベンダーを再選定し、再びシステムの刷新へ

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JQ プロジェクトマネジメント事業部 マネージャー 清水

下田: 今回のプロジェクトで一番印象に残っているエピソードをお聞かせください。

田口氏: 実はこのプロジェクトは一度、頓挫しかけたことがあります。そこから私がPMを任命され、立て直すまでの試行錯誤が強く記憶に残っています。問題が起きた原因を経営陣に報告し、その後ベンダーを再選定し、そして改めて、キングジムの現場担当者に方針・指針を浸透させていく取り組みを行いました。

特に、ベンダーの選定については、一度目よりも、説得力のある説明と確信あるものにしなければならなかったこともあり、非常にプレッシャーでした。また、一度目の選定時には協力的であった候補ベンダー各社も、プロジェクトが中断した要因が明確でなければ協力できかねる、となってしまったことも困難さに拍車をかけていました。こちらで選べるという状況ではありませんでした。しかし、各社と真摯に向き合い、最終的に一度目の選定の際の最終評価2位のベンダーと、現行の基幹システムメインベンダーの2社に協力いただけることになり、失敗しない確信を得るために進め方の試行錯誤が続きました。

2社の協力もあり選定前に当社業務とパッケージシステムのFit&Gap確認を数か月かけて実施し、1社への絞り込みと経営層への説得力ある選定理由の説明が出来ました。

清水: プロジェクトが中断になり、「何が失敗だったのか」「どうすれば失敗を避けられたのか」とかなり時間をかけて議論し、ひとつひとつ洗い出していきましたね。そこから次こそプロジェクトを成功させるための対策をまとめ、実行していきました。

田口氏: プロジェクト再開後の対策として、各部門が迷いなく業務標準化を推進出来るようにプロジェクト責任者である専務に、より強力に方針・道標提示、旗振りの支援をお願いし、PMである私とホットラインで繋がれるようコミュニケーションを強化しました。また、失敗を受けて開発ベンダーの選定基準を見直すことなどに取り組みました。

特に責任者である専務からの協力を得られたことは大きく、プロジェクトが再び円滑に進み始める契機だったと考えています。専務からは業務部門メンバーに対して、業務の標準化や基幹システムに対する要望の出し方、要望の基準を説明いただき、また、各部門からの標準外の追加機能に関する要望も細かに費用対効果や必要性をチェックいただくなど、標準化に向けた統制を取っていただけるようになったのです。このおかげで、業務の標準化の検討が進み、追加機能開発を最低限必要なものとすることができました。

開発ベンダーの再選定もJQ社と一緒に取り組みました。特に気をつけたのは、開発ベンダーの体制です。開発ベンダーのPMだけでなく、販売や物流など各業務の要件を検討する主担当者も含めて、パッケージ製品に対する理解や経験があるのかをレジュメを通してチェックし、製品理解を基に、業務部門の標準化を支援していただけそうかを確認しました。また製品ベンダーと導入ベンダーが別の会社ではなく、同一の会社であることなどを重視しました。その結果、今回のリリースまでご一緒した開発ベンダーを選定することになりました。

そこからは順調にプロジェクトは進んでいき、2024年の年末にはリリースに至っています。今ではこの失敗があったからこそ、最終的には無事に販売・物流システムの刷新を成功させられたと捉えています。

無事にレガシーシステムから脱却。リソースの最適化、採用への貢献で全社のDXを前に

下田: 弊社のプロジェクト支援によって、どのような成果を得ることができましたか?

田口氏: 無事に基幹システムを刷新できたこと、レガシーシステムから脱却できたことが何よりの成果です。各部門における業務効率化の成果が出てくるまではもう少し時間がかかりますが、情報システム部門では技術者の採用方針が大きく変化しています。これまではレガシーシステムの知識、開発技術を持つ人しか採用できなかったのですが、今後は開発技術や特定スキルにこだわらずに新しい人材を採用して、育成できるようになり、これは会社全体のDXを考えたときに、間違いなくプラスの要素です。

また、情報システム部門では基幹システムの保守運用に割かねばならないリソースを削減できたことで、全社のDX推進に人材を割り振ることができました。実際に現在取り組んでいるのは、社員全員を対象にしたDX推進活動です。各部門よりDX推進担当を募集・選定し、社内で生成AIやRPAの研修を現在実施しています。

下田: 今回のプロジェクトに携わられた方々には、どのような変化がありましたか?

田口氏: 各部門のIT・DXリテラシーに大きな変化がありました。今までは各部門が自分たちの業務を効率化するために細かいことでも遠慮なく開発を依頼してきたのですが、今回のプロジェクトで要件定義の考え方や開発の大変さを理解いただいたことで「コストをかけてまでカスタマイズする必要があるのか」と一度立ち止まってしっかり考えるようになったのです。

下田: 今回のプロジェクトに対して、社内からはどのような評価を受けていますか?

田口氏: 昨年9月に就任した弊社の社長も、基幹システムの刷新で一度失敗したことを知っていましたので、2回目の挑戦で無事に成功してすぐに東神田の本社から千葉県の松戸営業所まで足を運んでいただき、ねぎらいの言葉を直接いただきました。一緒にプロジェクト取り組んできた専務にも安心いただけたようで、早速新しいシステムの導入などを相談いただけるようになっています。大変ですが(笑)

「DX先進企業」を目指して。基幹システムの汎用性・拡張性の向上に引き続き取り組みたい

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下田: 今後の展望をお聞かせください。

田口氏: 基幹システム刷新の目的の1つであった拡張性の向上について、現在取り組みを始めているところです。旧システムとは違い、データベースが一般的なRDBに変わったため、他のシステムとも簡単に連携することができるようになりました。例えば、需要予測システムの導入などの検討を始めています。また、グループ企業間で在庫情報の共有化や商品の配送を共同で行うといった構想についても今後検討を行う予定です。

新しい基幹システムを今後10年、20年活用し、新しいことに取り組んでいきたいと考えています。

JQ社の強力な支援もあり、基幹システムの刷新はようやく一段落となりました。これからは社員個人のIT・DXリテラシーを高めていき「DX先進企業」と呼ばれるくらいまで会社全体を変えていきたいですね。

下田: 最後に読者へのメッセージをお願いします。

田口氏: JQ社との取り組みは、プロジェクトマネジメントにおける「安心を買う」といった感覚でした。今回のプロジェクトではJQ社の中でも、プロジェクトマネジメントに特化している方、業務の知見を持っている方、システムに強い方など、さまざまな方々にお力添えいただいています。おかげで私はトラブルシューティングと担当役員との連携に集中することができており、とても助かりました。

ただ、大事なのはコンサルタントにお願いすれば必ずプロジェクトが成功する、全部やってくれるという訳ではないということです。どこまでをコンサルタントにお願いでき、逆に自分たちは何をやらなければならないのかを明確する必要があります。システムも、コンサルタントも、採用するだけで劇的に変える「魔法」ではないことを念頭に置いたうえで、JQ社にご相談してみてはいかがでしょうか。

下田: ありがとうございました。

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